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2017第十五次瀬戸内カヤック横断隊レポート 原 康司

第15次瀬戸内横断隊レポート 原康司


 とにかく寒さが厳しい第十五次瀬戸内横断隊であった。初日から今冬一番といわれた寒気が日本列島になだれ込み、周防灘は大荒れ。難関の一つである長島~祝島の瀬戸を渡ることができず、横断隊では初となる初日停滞となった。その後も凪いだのは3日目くらいのもので、ほとんどの日を、強い西風もしくは北風と闘いながらじりじりと前進する日が続いた。結局、小豆島に到達することはできなかったが、厳しかっただけにそれはまた今回も印象深い横断隊になった。
 今回は隊長である僕の提案で新しい試みをした。地図やコンパスやスマホなど、現代の航海では常識となっている機器を航海中には使用しないという制限をつけた。それはなぜか?瀬戸内横断隊にとって、瀬戸内の海はもう新しい海ではない。島々の位置、潮流、海の色、気象、そして島に生きる人々。そのどれもが馴染み深くなり、僕たちの体の本流を流れはじめている。現代に頻繁に使用される航海機器と、これまでに培ってきた隊士の経験を駆使すれば、11月後半の厳しい時期でも、ほぼ間違いのない瀬戸内横断航海ができるまでに到達しているといってよい。
 近年は天気予報の確実性も増し、スマートフォンでリアルタイムの情報を収集できることから、横断隊でも活用されることになった。確かに便利手軽で航海の安全性も増した。発信力という意味でも貴重な道具だ。そういったこれまでの航海を否定するわけではない。ただブリーフィングの際や判断に迷ったときなど、皆がスマホ片手に下を向いているのを見て、これじゃいかんと思ったのも事実だ。
 常々、実感として感じるのだが外部からの情報に頼れば頼るほど、目の前の変化に対して鈍感になる。体をむき出しにして海を進んでいるのにも関わらず、なにか一つ自然と人間との間に、薄いバリヤーのものが出現してきて、自然の動きや変化を察知することが鈍くなり自分を信じようとしなくなる。
 かつてアラスカ沿岸を数か月旅した時には、天気予報を入手することはほぼ不可能だった。だが、海を漕ぎ続ける日々の中で、しばらくするとほぼ完璧に天候を予測することが可能となった。天気のみならず熊やクジラ、アザラシやセイウチの気配や匂いを常に感じ、まるで野生動物と同じ感覚で過ごした日々を思い出す。最も信頼できる判断は自分の感覚の中にあり、それに従えば生き延びられるという確信が持てたものだ。それが言うならば海気というものだろう。
 何日も人と出会わない日を過ごしてようやく街にたどりつき建物の中に入ると、途端に空気の流れが澱み、自然と隔絶されたことに恐怖を感じた。あれほど待ち望んだ街をすぐに飛び出して旅を再開したことを思い出す。自然の動きが読み取れなくなったことがとても怖かった。常に流れる風の中に身をおくことで安心できた。寝る時も風ではためくテントの中でなければならなかった。せっかく手に入れた敏感なアンテナを失いたくなかったからだろうと今では思い出す。
これは決して僕だけに備わった能力ではない。便利で快適な生活を送るうちにその能力を忘れているだけで、すべての人に元々ある力だと僕は思っている。体一つで自然と対峙し危機や困難に立ち向かえば必ず湧いて出てくる力だ。そして、その力を拓き磨くことは自身を信じ、自然を深く理解し、畏怖尊敬することにも繋がる。それはまた横断隊が目指すべき精神であるとも僕は思っている。
 横断隊でそれを試すとどうなるだろう・・・それは僕の中でも興味のある深化の一つでもあった。横断隊はソロではない。漕力や性格もわからない初対面の隊士とのパドリングにも直面することもある。そんな中、リーダーを務める隊士のプレッシャーも相当なものであることは容易に想像できた。
 今回の1週間で僕個人の中で分かったのは、まだ瀬戸内の島々は僕の体の中に完全に落とし込めていなかったということだ。見えていたのは地図とコンパスがある前提でのことで、僕の頭の中には海図は漠然としか記憶されていなかった。しかし今回それを理解することで、今回のルート上で分からなかった島々のビジョンは僕の記憶の中に完全にインプットされた。離陸前は陸上で入念に海図を記憶し、海上では目視と記憶の中の海図とのすり合わせ作業を常に行う。分からなかった海域は着陸後に海図で再び確認することで記憶する。とても重要な作業を繰り返してできたと思っている。
特に、今回リーダーを務めた隊士は初めての経験で大変だったと思う。だが相当なプレッシャーの中で今回見た島々のビジョンは絶対に忘れられないものとして各リーダーの頭の中に記憶されているはずだ。非常にうらやましくも思う。それはリーダーの特権だともいえる。
 そして、今回は航海機器さえあれば起こらない小さなミスが何回かあった。蒲刈までの距離の読み違い、しまなみでの烈風時の判断や荘内半島への横断、しかしミスをすることで見えてきたことは大きく、それは僕たちに足りなかった自己の能力に気付いたといっても良いだろう。小さなミスにとどめておけるのもこれまでの経験があるからこそだ。そのことが理解できただけでも今回の横断隊は大きな成功であったと思っている。
毎回の横断隊でこの反復作業を繰り返していけばあと五年後くらいには完全な海図なし航海が完成されるかもしれない。来年からも継続していきたいと思う。

 今回漕ぎながら、横断隊の意義ということについて改めて共有しなければならないなという想いが募ってきた。
瀬戸内横断隊は2003年に、シーカヤックアカデミーの実践版としての位置づけで始まった。シーカヤックのスキルアップやガイド・リーダー養成の側面を含みながら瀬戸内の海文化を学ぶ一週間の海旅だ。
たしかにシーカヤックガイドリーダーとしての有益な知識やスキルを試す場面は多々ある。しかしそれは一つ目的であって本来の目指すべき大きな目標ではない。では横断隊の目指すものとはなにか?
 それは、海で生きる道を学び、いのちの継承のできる人間形成そして育成をしていくということだ。シーカヤックという手漕ぎの小舟で1週間、島々を繋ぎ海を進むこと。天体の動きを意識し、空と海を凝視し、気圧さえも肌で感じ理解する。常に俯瞰的に海上にある自身をとらえ、目に見えないモノの気配も常に感じながら、なおかつ集団で海を進む。風にあおられ、波にもまれ、寒さに震えながらもじっと耐え漕ぎ進む。浜に流れ着く流木で暖を取り、生きるための最小限の食べ物、水、酒で命を満たす。俗世や経済とは無縁の時間の中で、先の海を案じることに雑念は起こらない。ただ生存するという人間の本能に基づいた行為の先には、自己の研鑽、他者へのいたわり、生き物への意識のつながり、その中で人間も自然の一部であり、すべての生物が支えながら生きているというこの地球の摂理が見えてくる。要は自分自身の漕ぎようこそ全てだと悟るのだ。
 漕ぎ続けてきたからこそようやく見えてきたこの価値観こそが横断隊の本質であり意義である。横断隊で学び、得たことをそれぞれの海でそれぞれの生き方として実践し伝えてゆくこと。それはシーカヤックガイドや海で恩恵を受ける者が世の中に伝えていかなければならない使命ともいえる。
 現代ではシーカヤックが海を学ぶために最適な道具であることは間違いない。ただ将来的には和船やサバニのような小型伝統船での瀬戸内横断もあっても面白いかもしれない。もちろん丸木船やスキンカヤックであったとしても。そういった時代が来たころには瀬戸内海は再び蘇り、再生の道を辿っていることだろう。
昔を辿ることは決して懐古主義ではなく、その連綿と繋ぎ昇華させてきた知恵を未来に生かしていくということだ。
1度消えた技術や伝統文化は取り戻すために長い年月がかかる。横断隊を100年続けるというのはそういう意味がある。その間には平穏な世の中ではない時期もあるかもしれない。辛難甘苦を舐めながらも続けてゆくこと。そしてその過程の中で、また時代とともに新たな価値観の胎動も起こることだろう。そのためにも僕たちは漕ぎ続けなければならない。現生人類の祖先が誕生して20万年、日本列島人が初めて海を渡ったのが3万8千年前といわれる。その長きの間、漕ぎ続け、自然とともに共存し、生き続けてきた先人のいのちの営み、歴史の延長が瀬戸内横断隊だ。海を漕ぐという価値観を再び体現し、継承してゆけるのはこの世の中では瀬戸内横断隊しかない。それは間違いない事実である。

 今年の横断隊は、かつての横断隊に臨む高揚感が戻ってきた。自分の中では嬉しい変化だった。みんなはどうだっただろうか?そのあたりは気になるところだ。小豆島に向かって過剰な冒険でもなく安易な停滞でもない、ぎりぎりの成長点を見つけながら今回も進めただろうか。それぞれの隊士の中に毎年残る想いだと思う。今回のチャレンジは小豆島に到達できなかっただけに、そういった想いを色濃く残すものだっただろうし、来年に向けての課題も明確に見えてきた。
 瀬戸内の海と、各地に脈々と増えてゆく人の繋がり、そして共に集い漕いだ隊士とサポートメンバー全てに今年も感謝したい。ありがとう!
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2003年第一次瀬戸内カヤック横断隊からの記録を掲載しています。

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